傀儡の恋
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いくらカガリの存在がこちらにあったとしても、オーブ軍の進撃を止めることはできないだろう。彼等には軍人としての矜持があるのだ。
そのことをまずは理解させたい。
バルトフェルドはそう考えていたらしい。
ある意味スパルタだが、それは間違っていないと思われる。
しかし、だ。
「なぜ、アスランがザフトにいたのでしょうか」
怒りを隠せないという表情でラクスがそうつぶやく。
「確か視察に行ったのですわよね?」
さらに彼女はこう付け加えた。
「そう聞いたよ」
キラが表情を失ったままうなずき返している。これはまずい兆候だ、と考えたのはラウだけではないだろう。
「それなのに、なぜ、今、地球にいるのでしょう。それは百歩譲っても、ザフトにいるというのは認められませんわね」
ラクスがそう告げる。
「それでもこちらとの関係を完全に遮断するならいいですわよ。彼の自由ですもの」
パトリック・ザラの息子なのだ。プラント側から勧誘が来たとしてもおかしくはないだろう。
しかし、それとこれとは別問題ではないか。
「その上、何ですか? よりにもよってミリアリアに接触したあげくに連絡をさせるとは……あきれますわね」
どうしてくれよう、と彼女はつぶやく。
「どうするもこうするも……会いたいって言うなら、会ってやるだけだ」
カガリがそう言って笑う。
「多少手が出てもかまわないよな?」
さらに彼女はこう付け加えた。
「カガリ」
「当然だろう。振られたと言うことだからな、これが」
傷心の人間が逆上してあれこれとするというのはよくある話だ。少しもそう思っていないであろう口調でカガリは言い切る。
「問題はお前だ」
どうする? と彼女はキラに問いかけた。
「いやなら会わなくてもいいんだぞ」
口調を和らげるとこう言葉を綴る。
「ううん……会うよ」
キラは小さく首を横に振るとそう言う。その顔にはうっすらとだが表情が戻っている。どうやら、他の二人が先にぶち切れたことで怒りの矛先を納めかけているようだ。
「話をしてからどうするかを考えないと」
ろくな会話も交わすことなく道を違えるようなことはもうしたくない。彼はそう続ける。
それは前の戦いの時の経験があるからだろう。
「……そう、だな」
カガリもそれを思い出したのか。小さくつぶやいている。
「会いに行くのはかまわないと思いますわ」
ラクスが口を開く。
「でも、二人だけというのはだめですよ。せめて近くに誰かを待機させていてください」
いざというときに介入できるように、とラクスは言わない。だが、それがわからないのはキラぐらいだろう。
「それがいいですね。後はミリアリアさんに注意を促しておきましょう」
ラミアスがそう言ってうなずく。
「護衛はお前がついて行け」
バルトフェルドはバルトフェルドでこう言ってくる。
「そうすれば、俺がこっちで待機していられるからな。ザフトがどう動くかわからない以上、警戒はしておくべきだろう」
それに同意をするようにラウはうなずく。
「確かに何があっても対処がとれるように準備だけはしておくべきでしょう」
そしてこう言う。
「地球軍がおそってこないとも限らないですしね」
ここまで言えばキラにも状況がわかったようだ。
「他にも、オーブ軍の中で動いている者がいるかもしれないしな」
さらにバルトフェルドがこう言ってきた。
「そういうことだ。これは決定事項でいいな?」
彼はそのまま視線をキラ達へと向ける。
「……はい」
それにキラとカガリは小さくうなずき返していた。